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製造業の持続性②

それぞれ自らの専門技術を持つ7人の侍による会談の様子をお届けします。

今回は製造業の持続性①からの続きになります。

 

[前回の結び]

優秀な技能を持つ方が高齢化で働けなくなっていく。その一方で、就業者は右肩下がり。

このような状況で日本の製造業に未来はあるのでしょうか?

 

技能伝承、IoT化、自動化、企画・設計・開発の強化、特殊な材料の高精度加工、保有技術の新規展開、安全教育。

ここまでのお話しですでにキーワードが出てきていますが、現状打破のためには今後何が必要か!?

引き続き皆様のご意見お願いいたします。

 

出演者

今井 :機械部門の技術士。専門分野は製造技術(硬脆性材料、工業用貴石)及び放電加工

大薗 :金属・機械部門の技術士。専門分野は薄膜形成、機能フィルム、電子デバイス開発

鈴木 :化学部門の技術士。専門分野は静電気事故防止、コンタミ防止、適格性評価

田口 :機械部門の技術士。専門分野はプラスチック製品設計

春山 :機械部門の技術士。専門分野は製造工程の自動化

坂東 :情報工学部門の技術士。専門分野はITとEnglishのプロフェッショナル

福崎 :金属部門の技術士。専門分野は金属組織の分析屋

 


[坂東]

面白そうなトピックですね。

 

中小企業診断士の業界でも「事業承継」に伴う「技術の伝承」は大きな課題と

なっています。

それが出来ないがために、黒字企業が廃業に追い込まれることも

少なくありません。

現に「痛くない注射針」の企業も後継者難で廃業しました。もったいない。

 

当然、現状の厳しい課題に「魔法の杖」はありません。

 

ですが、私がパッと思いつくキーワードは下記の通りです。

 

① オープン・イノベーション

具体的には「産学官連携」("三人寄れば文殊の知恵")と

「企業間アライアンス」(”スイミー作戦”)です。

 

中小企業にとっても実現可能性が高い上に、「産学官連携」と

「企業間アライアンス」は発展の余地があります。

 

死蔵した特許の「クロスライセンス」なども面白いかもしれません。

とにかく自社内だけでウジウジ考えていても良いアイデアなど湧きません。

異業種間の化学反応(突然変異)が求められています。

 

 

② 「擦り合わせ」と「組み合わせ」

日本の製造業は「擦り合わせ」型です。

企業城下町に代表される「ケイレツ」がその代表例です。

企業間に主従関係があります。

 

大企業の最終製品に特化した形で、各企業がシステム全体を俯瞰した

最適化を図るモノ作りです。

 

それに比べて、海外の製造業は「組み合わせ」型です。

独立した企業群(力関係は対等)が各々の材料を持ち寄ってぶち込んでいく

「闇鍋」方式です。

「闇鍋」が作れる背景は、ぶち込む「鍋」

(=ISOやデファクトスタンダード等の標準規格)が存在するからです。

 

Andoroidスマホの場合は、Andoroidという「鍋」に対して、

有象無象の企業群が材料を好き勝手にぶち込みました。

 

日本の製造業は「百点満点」を目指しすぎて、「擦り合わせ」型偏重でした。

しかし、上記①「オープンイノベーション」に関連して、「組み合わせ」型の

思想も取り入れないと厳しいでしょう。

個人的には、「IoT」はまさに「擦り合わせ」と「組み合わせ」の

コラボレーションだと考えています。

 

IoTを構成する多種多様な要素(デバイス、センサ、クラウド、ソフト・・・)を

「組み合わせ」つつ、システム全体としての完成度を高めるよう

「擦り合わせ」ていくという訳です。

 

 

③ ナレッジ・マネジメント(知識管理)

いわゆる「暗黙知を形式知に変換する」ということです。

形式知の形態は色々と考えられます。

ドキュメント化(ノウハウ集やマニュアルの作成)、作業風景のビデオ録画、

インタビュー、データベース構築、等々、とにかくメンバーで幅広く

共有できる形態です。

 

これを突き詰めると、AI(エキスパートシステム)に形式知を突っ込んで、

AIが「先生」になる時代がやってきます。

 

 

④ 徒弟制度(ギルド制??)

ドイツのようにギルド制を導入するのは面白いかも。

自社内だけではなく「業界全体」で”金の卵”を育成するというスタンスです。

 

ただ、残念ながら、徒弟制度に関しては「技術士補」制度が有名無実化

していることから、実際の運用に注意する必要がありそうですね。

 

少子高齢化社会で日本人が衰亡していくのは明白なので、いっそのこと、

”大和魂”を親日的な外国人に継承するのが現実的な解という気がしています。

海外労働者の流入(それに近い形態として「オフショア開発」)が

加速するのは既定路線でしょうね。

 

 

⑤ 単純労働の自動化(RPA)

 

RPA(Robotic Process Automation)は、要するに、オフィスソフト等の単純な

オペレーションはプログラム(マクロ)で自動化してしまうシステムです。

現在の労働者の労働時間は、実際のところ、クリエイティブな仕事

ではなくて、誰でも出来るような雑務が相当部分を占めています。

そのような雑務は作業パターンに規則性があるため、RPAで簡単に

自動化できます。

 

RPAはあまりにも簡単な仕組みであるため、AIと呼ぶに及ばないレベルの

システムです。

今後は、中小企業でも導入が進むと見ています。

 


[春山]

坂東さん

ありがとうございます。

痛くない注射針の会社、岡野工業さんですよね。廃業していたのですね。

びっくりしました。

 

オープンイノベーションや擦り合わせと組み合わせのためには、

やはりまずはナレッジマネジメントが必要であるように感じました。

 

暗黙知を形式知にするためにまずドキュメント化というのは分かります。

ビデオ撮影や現場の職人さんからヒアリングして作業標準に落とし込む。

 

この辺りは生技の出番ですね。私も経験があります。

暗黙知を形式化するには難しさがやはりあります。

 

難しさというか、粘り強くやる必要がある、と言った方が適切ですね。

粘り強くヒアリングを続ける、聞き取った作業を一つ一つフローチャートに

落とし込む。

 

例えば板厚がバラついた時に溶接電流をいくつにすればよいか?などの

判断が入るところは実験を行い数値化する。

 

効率良い実験には実験計画法を使う。

 

など、細かな点を粘り強く明らかにしていく必要があります。

 

こうやって作業のフローと、管理数値を明確にして初めて暗黙知が形式知に、

すなわち技能が技術になります。

 

技能というのは個人の能力に頼ったもの。

技術というのは誰がやっても同じ結果を得られるように仕組み化されたもの。

 

火を起こして火加減を見ながら飯ごうでご飯を炊くのは技能。

炊飯器でご飯を炊くのは技術です。

 

形式知、技術の確立までにはアナログ的な仕事がたくさんあるわけです。

 

さて坂東さんにお聞きしたいのですが、形式知を突っ込んだAIが先生になると

仰っていますが、AI先生はどのようなことを教えてくれるのでしょう?

 

これによって将来なくなる職種と新しくできる職種が見えてきそうな気がします。そこに一つ、日本の製造業の現状打破策が見えてこないでしょうか?


[坂東]

私の回答を話す前に、AIの中でも「エキスパートシステム」について

説明したいと思います。

幾つかの種類があるAIの中でも「エキスパートシステム」は最古参です。

「エキスパートシステム」という名前の通り、エキスパート(専門家)の

受け答えをシミュレートするような人工知能を想定しています。

 

実は、ここで言う専門家というのは、お医者さんのことでした。

お医者さんの問診はある程度パターン化されているように見えるため、

問診をプログラミングできないか?という発想から来ています。

結果的には、「ある程度」までは成功したという評価です。

現在最先端のAIと言える「IBM Watson」も「エキスパートシステム」の

一種です。

「IBM Watson」は人間のクイズ王を打ち破ったり、癌の治療法を

発見したりしているのだから、文字通りの専門家です。

 

さて、春山さんの質問に対する回答ですが、AI先生が教えてくれる知識は

「過去に入力された、どこかの専門家の専門知識」です。

 

質問者の質問文を解析した上で、膨大なサイズの「知識ベース」から

検索して、その質問に最も適合した回答を表示してくれることになります。

要するに、「Yahoo! 知恵袋」をAI化したようなイメージですね。

 

「エキスパートシステム」の限界として「知識ベース」に未登録の知識は

対応できません。

ですが、生身の人間も、自分がまだ知らない専門知識には対処できないのは

同じですね。

 

春山さんに対する回答文は、こうやって私がキーボードを打って書いている

訳ですが、ひょっとしたら、こんな回答文もAIが自動的に返すようになる

かもしれません。

「チューリングテスト」といって「AIが人間並みの知性を得たか

「チェックするテスト」があるのですが、回答文の作者が「人間」か

「AI」か分からなくなるようになってくるでしょう。

 

下世話な話ですが、「出会い系サイトのサクラ」なんか、

真っ先にAI化されるかもしれません。

男の頭の中なんぞ、しょーもない程にワンパターンで単純ですから。

 

以上、とりとめもない回答で恐縮です。

 

ちなみに、IBMはAIという用語が嫌いなので、

「Cognitive computing 認知的演算」というまどろっこしい用語を

使っています。


[春山]

なるほど、エキスパートシステムですか。

てっきり第三次AIブームの立役者、学習型のディープラーニングという話が

出てくるかと思いましたが第二次AIブームの立役者、知識型ですね。

 

エキスパートシステムにどこかの専門家の専門知識を入れるとなると、

その専門知識を有する、そしてその知識を常にアップデートできることが

重要ですね。


[坂東]

仰せの通りです。

なので、AIを学ばせるための何らかの専門家のコミュニティが

必要だと思います。


[春山]

坂東さん

なるほど、暗黙知を形式知に変えるためには製造業のさまざまな専門家に

加えてAIの専門家が必要ということですね。

 

専門家の暗黙知を形式知にするというと、今までは大学教授や学会の

著名人、研究所員が本や論文という形で世に残していました。

 

しかしこれからは製造業の現場を担ってきた技能者や技術者がAI専門家の力

を借りて自らの経験と知識を形式知化して人工知能というツールを使って

技術伝承していく、といった感じでしょうか。

AI×生産技術、あるいはAI×製品開発みたいな。

 

こうなるとこれもすでに他の方が指摘していますが、

形式知となったものは比較的簡単に真似できてしまうため

強みがなくなっていく恐れがありますね。

 

いままで生産技術というと特許は取らずに完全に社内だけの

秘密としている部分が多かったですが、

これからはある程度は技術をオープンにしてしっかりと特許を抑える

ということが必要になってきますね。


[田口]

自社製品を創ることです。下請けの仕事だけでは未来はありません。

私のクライアントは起業して自社製品をいくつも立ち上げました。

現在たった一人でインターネットで販売しています。

 

アイデア、熱意次第で、

どんな企業にでも、個人でもできます。

 

<春山さん>

製造業の就業者減少は、生産性が向上したというのも大きな理由だと

思われます。


[春山]

田口さん

自社製品を創る。これはいいですね!

自社独自の新しいものを創ろうとするとアイデアが大事とよく言われますが、

私はアイデアよりもそのあとの実際に具現化していく工程に難しさがあると

思っています。いわゆる産みの苦しみ。

 

この辺りのコツというか秘訣というか、言える範囲で事例なども

教えていただけると嬉しいです。

 

製造業の就業者数減少は仰るとおり、生産性向上も影響しています。

近年、産業機器・設備によく使われる自動制御機器、PLCの出荷台数は

右肩上がりです。

 

三菱電機HPからマイクロシーケンサ出荷台数のグラフ引用します。

 

1990年初頭から現場の自動化が大企業を中心に進み、生産性が上がっていきました。

加えて工場の海外移転も影響していると思います。

暗黙知から形式知となったものは製造場所や人種・性別・年齢を選ばない。


[春山]

いったんまとめると、

形式知されたものは自動化などにより省人化されたり

人海戦術が有効な海外に需要をとられてしまった。

しかし日本にはまだまだ暗黙知がある。

一方で製造業の就業者数が右肩下がり。

暗黙知の形式知化をさらに進める必要がある。

そのためには人工知能、それもエキスパートシステムが有効である。

暗黙知が形式知になればやはり日本の強みではなくなる。

強みを保つためには、自社製品の開発力を上げる必要がある。

 

といったところでしょうか。

 

私は日本の強みは、これに加えて生産技術の開発力強化を上げたいです。

新しい企画・製品をどうやって製造するのか?市場に乗せるにはある程度の作業効率化が必要です。

この、新しいものを製造する技術やその技術を開発する力をつけていく。

 

これって3次元CADで格好良いモデルを作図できる能力とは違い、

一つ一つの作業をしっかりと観察してデータを取り、整理するというアナログな仕事なんですよね。

 

これは、ときに細かすぎるといわれるこだわりを持つ日本に強みがあると思います。

 

というわけで、

製品開発(田口)→生産技術開発(春山)→エキスパートシステムによる形式知化(坂東)

→量産は人口の多い国に任せる、あるいは平野の多い国で広い工場を作り全自動生産→次の製品開発

 

このサイクルを日本主体で回せるようになればいいですね!

[田口]

自社製品について

 

まず創ろうと思うことが大切だと思います。とにかくそこからです。

創ろうと思ったとき、いろいろとアイデア出しをしていきます。

やってみると分かりますが、すぐに壁にぶつかります。

いいアイデアを思いついたと思っても、ネットで調べてみると

もう商品化されている。

世の中のニーズは既に全て満たされているんじゃないかと思ってしまいます。

 

それでも頑張って一生懸命探していると、少しずつ自分自身の感度が

上がっていきます。

ホームセンターに行っても、Amazonでネットショッピングをしていても、

「あ、こんな商品どうかな」と思いつく。

そうやっているうちに、100個に1個ぐらい、

自社でも売り出せそうな製品やサービスのアイデアが出てくる。

 

商品開発なんて、そんな泥臭いものだと私は思っています。

いいアイデアがあったらいいのになあ、という漠然とした思いだけでは

なかなか難しいんじゃないでしょうか。

 

 

設計や新商品開発をやるときにいつも思うのは、日本のすばらしさです。

それは狭い国土の中に、あらゆる技術が揃っていること。

何か技術的な課題がある時、大抵国内の企業が解決策を持っています。

 

このような環境で商品開発ができる国は少ないでしょう。

明らかに日本の強みとなっていると思います。

もちろん、外に視点を向けるという観点では、

マイナスになっているかもしれませんが。


[春山]

田口さん

ありがとうございます。

田口さんが泥臭いと表現されている内容は私がアナログ的な仕事とか産みの苦しみと

表現しているところと通じるものがあるように感じました。

 

何事もとどのつまりは

まずはやり切る覚悟を決める。

やり切るためにどうすればいいか考える。

考えて考えて考え抜く。

現状をよくよく観察する。

徹底的に観察する。

いいと思ったらやってみる。

つべこべ言わずにやってみる。

 

ちょっとくどいですかね。

でもその先に答えが見えてくる、と言うことですよね。

特にやってみる、というのは大事だと思います。

 

むかし新製品の自動組み立てラインを開発していたときに、製品側の仕様で

それまで使ったことのない樹脂を塗布する必要がありました。

放熱性のよいアルミナ粉末が混ざった樹脂です。

ディスペンサーという樹脂などを塗布するための機械があるのですが、

使用する材料に樹脂粉末が入っているため機械の摩耗劣化が懸念されました。

これまで使ったことのない材料。

当時はその材料そのものが世の中に出はじめたところ。

このような状況でも、しつこく

「使ったことがあるのか?」

「他社での状況実績はあるのか?」

「実績ないものは採用できないぞ」

と言う人がいました。

 

独立してコンサルをやっていても

「やったことがないから、、、」

と言う人がいます。

 

やったことがないことに挑戦してもらい成果を出せるようになっていただくために

我々のような技術コンサルがいるのですよ。

 

日本にはあらゆる技術がそろっている環境が整っているというのは本当、

おっしゃる通りですね。

設備の開発設計やっていたころ、ちょっとした部品が欲しいとき

ネットで注文したら次の日には届きましたしね。

 

環境が揃っている今のうちに具体的には2020年中にでも

暗黙知の形式知化、

開発力の強化、

他にもあるかもしれませんがこういったことを進めていく必要がありますね。


[坂東]

そもそも当たり前の理屈ですが、経験値がたまるのは「未経験のことを経験した」

ときのはずです。

 

裏を返せば、経験しきったことを反復しても、経験値がたまらないし、

レベルアップもしません。

 

失敗も経験のうちです。

「失敗すること」を避けるのではなくて、「失敗により致命傷を負うこと」を

避けるべきでしょうね。

 

経験値を積むために何回失敗しても許されるような環境を企業が率先して作る

必要があるでしょう。

ただ、今の日本企業は余裕がなくなってきているので、

 

失敗→損失→処罰→事なかれ主義→陳腐化

 

の負のループに陥ってしまっているのでしょう。


[春山]

坂東さん

ありがとうございます。

それじゃあジリ貧じゃないですか!

負のループはなんとか断ち切らないと。

 

それこそ7人の侍で切って切って切りまくりましょう(笑)

 

新しいことに挑戦する。

 

新しい製品を開発してみる。

IoT要素を入れてみる。

 

製造の不具合は

工場内の静電気に問題があるかも。

そもそも使用している金属の組成に問題があるかも。

新しい視点で分析をやってみる。

 

ひょっとしてその不具合は

表面処理、薄膜形成で解消できるかも?!

新しい処理をやってみる。

 

加工が難しい貴金属を使ってみる。

 

技術の継承にAIを取り入れてみる。

 

そのために我々が

全力で支援させていただきます。

 

といったところで一旦このテーマは

締めたいと思います。

 

皆さんありがとうございました。



製造業の持続性②を最後までお読みいただきありがとうございます。

前編の製造業持続性①も併せてお読みいただければ幸いです。

 

ご意見などはブログコメント欄、もしくは

春山(haruyama@hauyama-ce.com)までよろしくお願いいたします。